名前をつける、皆が呼ぶ

年末年始、祖父母の家がある、広島県は尾道市に滞在していたので、その時感じた事を書こうと思います。尾道というと、大林監督の『転校生』の舞台としてご存知の方も多いのではないでしょうか。階段から男女が転げ落ち、男と女が入れ替わってしまうというあれです。

瀬戸内海に面した街で、港からすぐの所に山があり、その斜面にびっしりと張り付くように家屋が建っています。ひとたび路地に足を踏み入れると、昭和の時代にタイムスリップをしてしまったかのような感覚に陥るくらい、古き良き時代の風景をそのままに残しています。

小さい頃から、1年に数度は尾道を訪れていたのですが、じっくり町中を歩き、その空気を肌で感じたのは今回の滞在が初めてでした。

広島県尾道市について

※Wikiペディアより抜粋

岡山市と広島市のほぼ中間に位置しており、この付近は両地域の「緩衝地帯」となっている。瀬戸内海(対岸の向島との間はその狭さから尾道水道と呼ばれる)に面し、古くから海運による物流の集散地として繁栄していた。

「坂の街」「文学の街」「映画の街」として全国的に有名である。文学では林芙美子、志賀直哉などが居を構え、尾道を舞台とした作品を発表した。映画では小津安二郎監督の「東京物語」が尾道で撮影され、大林宣彦監督の「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」は『尾道三部作』として、若い世代にこの町を有名にした。


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空き家再生プロジェクト

かつて海運や近年では、映画の撮影地として話題を集めた尾道市ですが、過疎化や坂の多い立地が仇となり居住者が減少の問題を抱えています。

私も街を散策しましたが、メイン通りである商店街もシャッター通りが目立ち、人はまばらでした。坂の住宅地にも空き家が目立ち、今にも朽ち果てようとしている家屋も少なくありませんでした。

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尾道の商店街、シャッターが目立ちます。このような現状に対して、最近注目を集めているのが、NPO法人空き家再生プロジェクトの活動です。
http://www.onomichisaisei.com

このような空き家を活用し、カフェや店舗、交流の場として再生し、地域の活性化、観光に貢献しています。尾道の街を歩いていると、坂の多い立地にあるからか、普通では考えにくいような立地に建つ建物や、形状が珍しいもの等、もし自分が建築家だったら、果てしないインスピレーションを与えてくれそうなものばかりでした。

こういった建物が空き家になってそのまま朽ち果てて行くのを待つのは確かにもったいない。そこに目を付けて、復活させようとしたのは本当に素晴らしい事だと思います。そういった家屋は、尾道という土地柄との必然性もあり、今後この動きが広がって行けば大きな観光資源にきっとなるはずです。

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壁にへばりつくようにして建つ「梟の館」

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通称ガウディハウス

NPO法人尾道空き家再生プロジェクトが手がけてきた再生物件の一覧
http://www.onomichisaisei.com/bukken.php

建物に名前を付け、それを皆が呼ぶ

当たり前の事ですが、人にはそれぞれ名前があります。親がつけてくれた名前です。そして、友達の間になると、親しみを込めてあだ名で呼び合ったりもします。

それを建物に置き換えると、人が住んでいる家は「●●さん家」という呼び名であったり、商業ビルになると、はじめから名前がついていたりします。

でも、誰も住んでいない家は「空き家」という名前に一律で押し込められ、最悪の場合、「おばけ屋敷」なんて呼ばれたりして敬遠の対象になったりもします。私が尾道で出会ったそういった空き家や再生物件にはちゃんと名前がありました。正月に親戚が集まっていろいろと話をしていたのですが、皆その名前を知っていて、行く事をおすすめしてくれました。

あの「空き家」面白いからいって見るといいよ、とはならないですよね。人も建物も名前があって初めてその存在を認知され、その名前を介して、その人の事を後で思い出したりする事が出来るのだと思います。

そういう意味では、名も無い空き家に名前をつけることは、再びその建物に命を与える事と近しく、そういった建物の集合体が、街に新たな個性を与え、やがて多くの人から親しみを持って呼ばれる対象になり、街全体が息を吹き返すのではないでしょうか。

小京都にならない町づくり

僕は、観光学を学んだ事も無ければ、専門書を手にした事も無いど素人ですが、少ないながら日本の観光地を訪れた際に思っていた事がありました。観光地に必要な要素は、以下のような点だと思います。

・有名な史実の舞台である事

・景勝地である事

・食べ物がおいしい事

・何かのメッカである事

普段の生活では体験できない、非日常を、どうやって提供して行くか。その地域が持っている財産は何かを、まず把握しそれが最も伝わりやすい層へ伝えるには、どのような生かし方がよいかを考え、形にして行く。

よく、「小京都」みたいな言い方をされる街があると思うのですが、個人的にはそうなった時点で、街の本当の魅力は伝わっていないと考えています。一見、雰囲気を伝えやすい便利な言葉ですが、裏を返すと、その街の個性を消し去る危険な言葉でもあります。

近場の小さな京都へ行くよりも、遠くの本場の京都に皆本当は行きたいのではないでしょうか?尾道の取り組みは、街の本当の魅力を復活させる素晴らしいものだと思います。街が活気を取り戻し、観光客であふれ帰る日もそう遠く無いのではないでしょうか?

皆さんも是非一度尾道へ。